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パプアニューギニアの学校教育支援−ファイナル・リポート−
「教師教育の観点から」

 瀬田 智恵子・林 徳治 グループ
 Reporter:林 徳治(Tokuji Hayashi)
要約

本プロジェクトの目標および期待される成果の概要は以下のとおりである。

  • Over all goal
     To improve quality of basic education nationwide through electric media regardless of geographical setting
  • Outcomes
    1. Support the implementation of curriculum reform
    2. Introduce effective teaching and learning strategies
    3. Produce component teachers
    4. Support remote schools

本プロジェクトの成果のうち上述(3)の教師教育(教員の資質向上)に焦点を絞り現地調査した結果について述べる。調査は、本プロジェクト初年度(2002年度)と最終年度(2004年度)の計2回にわたり実施した。調査方法は、モデル校とパイロット校(Port Moresby近郊のprimary and secondary school)のTVおよびNon TVクラスの授業観察記録、教員へのインタビューにより質的な分析を試みた。結果より、本プロジェクトによる教師教育の成果および今後の課題について述べる。

授業改善に起因する教師教育の観点

教師の授業改善を図る上で、その要因(factor)を決定すべく次に挙げる先行研究を引用した。沖(山口大学)は、本学で実施された学生による授業評価(149科目、9,624人)より学習者の理解や意欲向上につながる教師の授業技術を抽出・検証し、学内および近隣の大学教員を対象としたFD(faculty development)研修において本調査結果を提案している。図1と図2は、それぞれ1999年度後期と2002年度後期に実施された授業評価を共分散構造分析により学生のメンタル面についてモデル化したものである。四角で囲まれた項目は学生授業評価の設問項目であり、丸で囲まれた項目は潜在変量として抽出された因子である。

ここで重要なことは、「授業技術」が「学生意欲(1999年度のみ)」および「スキーマ」を通して、「理解度」や「関心度」、「有意義度」に反映しているということである。その程度は、各パス係数の値を総合すると「理解度」で0.56(1999年度)および0.71(2002年度)、「関心度」で0.58(1999年度)、「有意義度」や「満足度」で0.61(1999年度)及び0.77(2002年度)にも上る。結果より、認証評価で最も重要となる授業の「理解度」と「満足度」が、教師の授業技術に大きく依存していることがこのモデルからわかる。

学生の授業評価を通して、授業担当者の苦悩がいかに学生の満足度を上げ、理解度を深めるかに尽きると言えるであろう。


図1 1999年度後期学生授業評価における学生のメンタル・モデル


図2 2002年度後期学生授業評価における学生のメンタル・モデル

本報告書では、教師の授業技術の向上に大きく起因する上記6つの観点(話し方、説明、教材、メディア、質問、態度)に着目した。筆者(林)は、本プロジェクトにおいて教師(モデル校、パイロット校)のインタビューと授業観察記録より6つの観点について分析・検討し、成果および課題を述べた。

調査方法・内容
(1)調査校
 実施した調査校は以下の通りである。
@モデル校(primary school)・・・計2校

モデル校とは、TV放送教育番組を収録する学校である。モデル教師が実施した授業をメディア教育センターのスタッフが録画・編集して所定の時間帯にTV教育番組として放映する。収録した学年は「grade7、grade11」、教科は「science、social science」である。モデル校では、モデル教師用の教師訓練が事前に行われている。授業では、生徒用の実験器具、提示用パワーポイント教材、実物、カードチャートが利用されている。本プロジェクトの最終年度では、収録したモデル教師の変容について調査した。

Aパイロット校(primary school)・・・Port Moresby近郊の計4校

パイロット校とは、TV教育番組を受信して授業を実施する市街地の学校である。視察したパイロット校は、モデル校(Port Moresby)から20〜30km離れた山間部と海岸沿いの学校である。パイロット校では、TV教育番組の放映時間とカリキュラムに従って授業が行わる。教師は、放映される授業内容を教材として授業を実施する。また教室には、TV番組受信用のモニタが通常1台(一部では2台)設置されている。パイロット校では、本番組を利用して授業を実施するクラスと、利用しないで現地教師により授業を実施するクラス(Non TVクラス)がある。本プロジェクトの最終年度では、地方で教師の資質や力量不足が叫ばれている中、TV教育番組の提供が教師に与えた影響や成果について調査した。

(2)調査方法

本プロジェクトの初年度(2002)と最終年度(2004)の2回にわたり、モデル校とパイロット校で授業の観察記録および教師のインタビューを実施し、教師の授業技術の変容について調査した。

(3)調査内容

調査した授業技術の観点は、先に述べた沖が提案する以下の内容について授業観察を基に調査した。

  @話し方(verbal)−明瞭性、速度、大きさ等
  A説明(explanation)−学習内容の組み立て(論理性、順序)
  B教材(teaching material)−教材コンテンツ(実験器具、白板、印刷物、CP等)
  Cメディア(media utilization)−本報告書ではTVに焦点化
  D質問(question)−発問、KR(knowledge of results−知的KR・情的KR)
  E態度(non verbal)−アイコンタクト、机間指導、ジェスチャー等
調査結果
(1)モデル校における教師の教授技術

授業参観したモデル校の収録授業のうち、2002年度より改善された2004年度のモデル授業(行動目標型)の流れを以下に示す。

 ・対象・・・secondary school、grade11(17歳)
 ・科目・・・物理
 ・単元・・・conservation of energy
導入 1: 本授業の学習テーマの提示(パワーポイント) 教材、説明
2: ノートへ記録する指示 教材、説明
教授活動 3: 実験の演示(振り子の運動実験) 教材、説明
4: 発問・回答(板書) 質問
5: 確認事項の提示(パワーポイント) 教材、説明
6: 公式をノートへ記録する指示(パワーポイント) 教材、説明
7: 確認・応用問題の提示(パワーポイント) 教材、説明
8: 机間指導(行為) 態度
9: 生徒指名により教壇で実験(実験器具利用) 教材、態度
10: 生徒による回答(板書) 教材、質問
11: 確認事項の提示(パワーポイント) 教材、説明
12: 公式をノートへ記録する指示(パワーポイント) 教材、説明
学習活動 13: 発展課題の提示(パワーポイント) 教材、説明
14: 実験の演示(実験器具の利用) 教材、説明
15: 生徒間での話し合いの指示 説明
16: 机間指導(行為) 態度
17: ヒントの提示 説明
18: 生徒の指名 質問
19: 生徒による回答(板書) 質問
まとめと課題 20: 説明・確認(パワーポイント) 教材、説明
21: 終わりの挨拶 態度
22: 次回の学習内容の説明(パワーポイント) 教材、説明

以下、モデル授業における教師の授業技術について6つの観点より考察した。

@話し方(verbal)

モデル教師の授業中の話し方は、指示、発問など明瞭性、速度ともに初年度に比べ大きく改善されている。特にパイロット校の生徒や教師を配慮した話し方が随所で見られた。

課題としては、話す速度が授業前半と後半で異なり、後半につれて速くなる点が気になった。また、話し方に適度な間の取り方や生徒の学習活動に刺激(cue)を与える工夫が見られなかった。さらに、終始単調な話し方が目立ち、授業において重要箇所の指示や提示を明確にする必要がある。

A説明(explanation)

授業は、前述した授業の流れから明らかなように行動目標型のスタイルである。行動目標型とは、目標に沿って教師主導で知識・技能を教授する授業ある。授業の流れは、「学習のねらい・導入・展開(実験、ディスカッション)・まとめ」で順序立てられており、初年度に比べ指導手順が明確化され改善されていた。教師の説明は、言語(話し)と視覚教材(パワーポイント)を併用する方法が定着しており、パイロット校の教師や生徒を意識した指示など「働きかけ(action)」の配慮が多々見受けられた。また、生徒が筆記することに配慮して、パワーポイントの提示や補足事項を板書するなどの工夫が初年度に比べ最終年度では大きく改善されていた。

ただし、生徒に対して「聞く」、「筆記する」の指示が明確ではなく、筆記する時間が十分確保されないまま次の説明へ進んでいくケースがあり、生徒が混乱している様子が見受けられた。また、TV教育番組は教授活動に主眼を置いて放映されるため、十分吟味されていない教授法については、パイロット校の生徒にとってわかりにくい箇所があった。教科内容(理論)については、説明の論理性に欠ける箇所が一部見受けられた。現行のシラバスの指標や単元目標、さらに学習活動の記述自体に曖昧な表現がされている点が気になる。今後は、教科学習の内容について、シラバスの見直し、教師用指導書、教師用教材・資料集の開発を行い、パイロット校における教師のTV授業支援をめざし、質的向上を図る取り組みが必要である。

B教材(teaching material)

パイロット校では、教科書などの教材が不足しており、特にscienceでの実験のいくつかは教具不足で実施できない。そのため、モデル教師はパイロット校の教師や生徒の状況に配慮し、数々の実験器具を利用した演示、学習のまとめ、パワーポイントによる課題の提示、授業中の補填教材として黒板を利用していた。パワーポイントによる提示教材は、文字の大きさや色合い、一度に提示する文字量が初年度と比較して大きく改善されていた。板書についても文字の大きさや色使いなど多くの工夫が随所に見られた。

しかし、生徒が筆記する場面がやたらに多く、「見る」、「聞く」、「書く」といった学習活動が同時に生徒に要求されることから学習活動に問題が残る。モデル教師は、生徒に対して説明、指示、発問するといった行為を明確にした授業技術が要求される。パワーポイント教材は、文字情報による提示が中心であり、写真やイラストの提示など生徒の視覚に働きかけ印象付けるためデザインや提示方法が十分とは言い難い。そのため、教師が情報を「教授・伝授する」教材だけでなく、生徒が「考える・推察する」ための教材も必要であり、生徒の思考活動に刺激(cue)や時には休息を与えるため教授技術が今後の課題である。さらに、パワーポイント教材の提示時間は、全般的に短く生徒が筆記できないケースが目立った。今後は、パイロット校でプリント教材を配布するなど学習支援の教材が必要である。また、パイロット校に対しては教師用指導書および教材・資料集を事前に配付し、それらを併用してTV授業を行うことがより効果的な学習につながるであろう。

Cメディア(TV utilization)

モデル校でのTV活用は、パワーポイント教材の提示用モニタとして利用されている。クラスの人数が30〜40名の場合、現行のモニタ(29 inch)では提示用として少々小さめではあるが、文字の大きさを工夫すれば視覚に支障はない。また、パワーポイント教材提示の際には、モデル教師が提示や操作に費やす時間が改善されスムーズに行っており、教師の演示用(説明、質問、課題、まとめ)および教師に指名された生徒の説明用として活用されている。

ただし、パワーポイントの提示内容は、その多くが黒板への板書に置き換えても支障のない内容である。今後は、生徒の視覚へ働きかける教材として動きのある(動画)シミュレーションなどが提示できるよう教材ソフト(flash、CG)の開発にも取り組む必要がある。例えば、scienceの授業で実験を行う場合、教師がデモンストレーションして演示する点は大切であるが、導入、アルゴリズム、まとめの段階では動画の教材提示によりイメージの育成や知識の定着に高い効果が期待できる。すなわち、文字情報の提示を主としたパワーポイント教材から発展させ、TVの特性を活かしたシミュレーションや動画教材、TV in TV的なアイデアを取り入れた活用方法を模索していくことが今後必要である。

D質問(question)

モデル授業の教授学習過程は、教師の「働きかけ(action)」、生徒の「お返し(reaction)」、教師の「KR(knowledge of results:知的KR、情的KR)」の3方向のコミュニケーションが活発に展開されており初年度に比べ大きく改善されていた。特に、教師は生徒の回答に対して、正誤について知らせる「知的KR」、励ましや誉めるなど生徒の感情に働き返す「情的KR」を駆使し的確なコミュニケーション活動を展開していた。また、教師の発問は、「これは何?」と直接的に問いかけたり、「なぜ」、「どのようにして?」と間接的に問いかけたりするなど発問の仕方にも工夫が見られた。これは、パイロット校の生徒にも大変効果的で、単なる正誤の回答にとどまらず生徒個々の考えを取り上げることで広がりのある授業展開が可能になる。ただし、生徒が考え複数人が回答するには十分な時間の確保が必要であり、時間に制約のある授業では特にパイロット校の対応が困難であると考える。もう少しゆとりをもって発問時間を確保することが教師に求められる。また、間接的な質問をする場合にも、モデル教師はグループディスカッションの時間を予め指示するなど混乱を避けるための配慮が必要であろう。

E態度(non verbal)

生徒やビデオカメラへ視線を向けるモデル教師のアイコンタクトが初年度に比べ格段に改善されていた。また、学習活動中にモデル教師が机間指導する姿もよく見られた。パイロット校のモニタには、机間指導の指示を表す表示がされ、パイロット校の教師に参考となっている。

課題として、教師の表情には相変わらず硬い印象を受け、緊張のためかゆとりや笑顔が少ない。また、ジェスチャーもあまり見られず、パイロット校で長時間TV番組を視聴する場合生徒への刺激(cue)に欠ける。今後は、教師の表情や態度が生徒に及ぼす影響についてなど非言語コミュニケーションの教師訓練が必要である。


(2)パイロット校における教師の教授技術
【TV教育番組を利用しない通常の授業】

授業参観したパイロット校のうちTV教育番組を利用しない授業(Non TV Class)で、2002年度より改善された2004年度の授業の流れを以下に示す。

 ・対象・・・primary school、grade7(13歳)21名
 ・科目・・・科学
 ・単元・・・solution making gas
1: 今日の授業の学習テーマの説明
2: 各グループに実験器具の提供(ロウソク、プレート、水溶液、ビーカ)
3: 実験方法の説明・質問
4: グループ毎へ実験器具の助言
5: ローソクに火を付ける(教師がマッチで行う)
6: 水溶液をプレートに適量入れる指示
7: 水溶液の水面上に火のついたローソクプレートを載せる指示
8: ローソクにビーカをかぶせる指示
9: ローソクの炎の様子を観察する指示
10: 机間指導
11: 確認・まとめ問題のプリント配布(プリント教材)
12: グループの生徒間でのディスカッションの指示
13: 机間指導
14: 不明点についての確認の指示(一部グループでの再実験)
15: プリント教材の回答についてグループ毎に質問(板書)
16: グループ毎による教壇での発表
17: 補足・まとめ(板書)
18: 発表者へ拍手の指示
19: 終わりの挨拶

以下に授業中の教師の授業技術について前述した6つの観点より分析・考察をした。

@話し方(verbal)

パイロット校の教師の話し方は、明瞭であり、速度や大きさも初年度より改善されている。

A説明(explanation)

授業中の教師による説明は、モデル校の授業と同様に教師からの1方向的なものではなく、学習者の活動を取り入れた理想的な流れが実現されていた。インタビューをした結果、参観した授業の教師は、モデル授業の流れを参考にしていたことがわかった。説明時間は、長時間ではなく小単元毎に区切りを入れている。説明の合間には、机間指導を行い、生徒の理解度を確認している。

課題は、教科内容に関する理論や論理性が欠如していることである。前述したように、シラバスが不十分であることから、パイロット校の教師が参考にする資料やガイドブックがなく、単元の学習目標「何の学習なのか」が曖昧になる。その結果、教師自身が現象(視認)→原理(了解)を学習する、すなわち現象結果を解釈し関連知識を組み立てる(構築)際に無理や誤りが生じ、生徒に誤った知識を教授してしまうケースがあった。本授業で「ローソクに火を付ける」、「ビーカをかぶせる」ことによって生じた現象(ビーカ内に液体が流入する)に対する生徒の関心度は、体験学習として高く評価できる。しかし、その原因や根拠について十分な説明がなされていなかったのが残念である。教師は、「燃焼によってガスができたから」というまとめで授業を終了した。今後、教師の教科専門学習の再教育が必要である。

B教材(teaching material)

パイロット校では、教師が限られた教材と予算内で様々な工夫をしながら授業を実施している点に共感を受けた。授業の多くは、教科書と自作プリントを配布して行い、模型や実験器具、材料などは不十分である。実験器具や材料が不足している学校が多い中、TV教育番組を通して体験する実験は、生徒にとって動機付けや学習イメージの育成に効果的であり、またパイロット校の教師にとっても教授技術の習得に大きく貢献している。

本授業のように実験できる学習は、聴覚<視覚<仮想体験<実体験のように、生徒の関心度、理解度、満足度の面で最も高い学習効果が期待できる。ただし、教師の板書は、文字の大きさ、カラーチョークの使い方、板書の位置、授業に沿った書き方など基礎的な板書技術が欠如しており問題が残る。板書は、生徒が筆記する元になるもので、後から学習を振り返る点でも貴重な学習材である。そのため、教師の視聴覚教材の活用法や設計の訓練が重要になってくる。ある生徒が他教科で筆記したノートを見たが、煩雑すぎて学習内容を後から振り返るには困難である。「学習のポイント」、「内容」、「結果や意見」、「まとめ」、「課題」をノートに書き写す生徒への指導も重要である。

Cメディア(TV utilization)

本授業ではTV教育番組を使用せず。

D質問(question)

授業は、主に教師主導であるが各所で生徒への直接的あるいは間接的な質問が展開されていた。生徒の回答を教師が受容する情的KRは、以前に比べずいぶん改善されている。発問内容も、従来の正しい回答を求める直接的な質問から、「なぜ」、「どのように」といった間接的な広がりのある内容が増えている。

しかし、正誤を知らせるべき知的KRについて、教師は曖昧な回答を与えるケースが多く、生徒の正しい知識定着には疑問が残る。教師の発問が効果的な働くのは、教師自身の既有するスキーマ(知識技能)すなわち教科の専門知識の有無が大きく起因するため、専門的な知識習得が重要である。

E態度(non verbal)

教師の態度はまったくと言って問題ない。大変優れている。生徒の学習活動に配慮してアイコンタクト、机間指導、ジェスチャーを交えるなど、日本の優秀な教師と差異はない。


【TV教育番組を利用した授業】
 授業参観したパイロット校のうちTV教育番組を利用した授業(TV Class)で、2002年度より改善された2004年度の授業について6つの観点より考察する。

 ・対象・・・primary school 、grade7(13歳)21名
 ・科目・・・科学
 ・単元・・・solution

@話し方(verbal)

授業は、TV教育番組の流れに追随してパイロット校の教師が補足説明を行うのが一般的である。教師のアイデアによって、TV音声を消して話をする場合もあるが、授業の進度にズレが生じてしまうケースが目立った。モデル授業のクラスとパイロット校の授業では、各生徒のレディネス、つまずき、関心事項が異なり、パイロット校の授業に無理が生じるのも当然である。同時にパイロット校の教師の力量が、モデル授業と歩調を合わせて授業展開できるか否かを決める要因にもなる。授業内容に関する既有知識が十分な教師は、ゆとりを持ってTV授業の進度に対応している。また、教師がTV授業に注意を注いでいる間、生徒と同じようにTVを視聴していて生徒の学習活動を観察していない点が気になる。

A説明(explanation)

パイロット校の教師の説明は、やはり他人任せの感がある。教師自身の補足やアドリブの説明が見られない。また、教師へのインタビューでは、「授業がモデル教師主導で展開されるためパイロット校の教師の志気が下がる感が拭いきれない」との意見も聞かれた。この意見は、パイロット校の教師の力量(専門性の既有スキーマ)によって大きく異なる。専門的な知識を有する教師はTV授業に否定的であり、その理由はモデル教師の指導内容・方法への批判によるものである。これは、Secondary Schoolの教師によく見受けられた。反面、専門的な知識に欠ける教師にとってTV授業は、大変参考になるものであり有用である。問題は、放映されるモデル教師の授業が十分吟味された内容であればよいが、事前に知識や教授法が十分吟味されていない授業の場合、生徒はもとよりパイロット校の教師へも誤った内容を提供する恐れがある点である。教授法は、視覚から得られるもので参考になるが、知識面はパイロット校の教師の力量や理解度に左右され誤った知識も入りやすい。マクロ的にシステム工学的な視点から見ると、教師への影響は重要視されずその過程で修正(improvement)を加えることになるが、教育的な視点から見るとこの考えには疑問が残る。

B教材(teaching material)

パイロット校の教師の活動は、TV授業を視聴して補足説明と質問の確認、板書が多くを占める。また生徒の活動は、ほとんどがTV授業の視聴と筆記である。授業中、クラス内でのディスカッションの時間は3分と極端に短く、パイロット教師の質問に回答する生徒は3名であった。中でも気になったのが、TV授業内で提示されるパワーポイントの文字情報を一生懸命ノートに書き写す生徒と板書する教師の活動であった。その情報量も多く、提示時間の制約もあり、生徒の「考える」、「話し合う」といった学習がなされていないのが現状である。課題としては、TV教育番組に関するパイロット校の教師用指導書や教材・資料集の事前提供が重要である。

Cメディア(TV utilization)

パイロット校では、TVは音声、動画を組み合わせたメディアで、パイロット教師と共に授業で主となる学習材である。TVからは、モデル教師の説明、指示、発問、実験の演示、パワーポイント教材の提示、モデル校の生徒の様子など生徒にとっては極めて大量な学習情報が一方向に発信される。TVなど視聴覚機器を利用した際の重要な点は、利用するメディアの特性を活かした活用を心がけることである。情報は、動画、静止画、文字、音声から検討し、生徒の視聴覚に働きかけるよう提供することが重要である。授業は、TVを主体として進行していくのではなく、学習を主体とした中でTVが活用される、すなわちmedia oriented からteaching-learning orientedが大切である。現状のTV教育番組では、教授学習活動以外に付加的な音声、画像情報が含まれている点に注意したい。パイロット校の教師や生徒に対して混乱や過ちを招くようなデザイン、音声、画像情報の提供には注意が必要である。また、TVは一般的に見る、聞くメディアである。生徒の筆記は、視聴中に書くと言った新たな行動を求めるものであり、多くの負担をかけ効果的な学習は期待できない。例えば、パイロット校の生徒にはTV授業の視聴を通して次のようなことも考えられる。本時の学習内容にあまり関心がなくTVに提示される学習内容よりもモデル校の生徒に関心を持って視聴しているケース、発言の機会が少なく筆記のみで終わるケースなどが想定できる。学習内容に重点をおき刺激(cue)を取り入れたTV授業の見直しも必要である。パプアニューギニアの現状では、体験したことのないTV授業は、生徒にとって動機付けや意欲向上の面で期待できる。しかし、本プロジェクトを開始して2年が経過しTV授業が定着したパイロット校の場合、今後はコンテンツにさらなる工夫を重ね、視聴率の向上を図るだけの「楽しい」授業から「わかる」、「気づく」、「考える」ための授業(logical / critical thinking)を構築する必要がある。

D質問(question)

パイロット校では、授業がモデル教師主導であるため教師が独自で発問することは難しい。TV授業は、限られた放映時間のため生徒の回答にも時間的な制約がある。また、モデル校の生徒の回答に引きずられるバイアス効果も授業を観察して多々見受けられた。生徒が真に理解できているのか多くの疑問が残る。従来のようにモデル校の授業をライブ放映するだけでなく、生活に密着した新しい知識や技能習得のためのトピック教材や、パイロット校で生徒のディスカッションの場や教師が主導的に授業展開できる内容を提供することが必要である。

E態度(non verbal)

パイロット校の教師は、TV授業の内容について指導書やガイドブックが無いため、生徒と一緒にTVを視聴する時間が極めて長く、生徒への学習活動や机間指導がほとんど見られない。そのため、教師・生徒間のコミュニケーションが不足している。前述したように生徒の学習時間の多くが筆記に費やされているため、生徒同士のディスカッションや意見交換も見られない。今後、パイロット教師用の指導書を配布し、授業の流れや関連知識、生徒への質問やディスカッションの場面を事前に知らせておくことが必要であろう。

教師教育(授業技術改善)の内容
(1)授業改善を目指した研修内容

校種、教科を問わず授業技術改善を目指した基礎的な教員研修は大別して以下の3種類である。(日本で地方自治体が実施する教員免許法講習、自主研修を参考)

@教科専門の研修(教科教育)
 教科の専門性やカリキュラム開発を育成する。

パイロット校での授業観察を通して、教師の教科専門の研修が不可欠である。現行のTV教育番組による授業は、パイロット校の教師がモデル教師の教授法を参考でき日常の授業に活用できる点は期待がもてる。しかし、教科の基本となる専門知識についてはモデル授業から十分得られるとは言い難い。教科専門の知識を補填するためには、教師教育用教材が不可欠である。研修内容・方法としては、行動目標型と社会的構成主義型がある。行動目標型は、専門知識についてレベル別かつ系統的に講師が定める研修を行うものである。社会的構成主義型は、個々の受講者が関心のある専門知識に関連したトピックを選択し、それらを組み立てながら主体的に研修を行うものである。最近では、詰め込み型の行動目標型から、研修を受講する教師のニーズ、情意面、ディスカッションを重視した社会的構成主義型のワークショップが注目され実施されている。ただし、専門知識を深化させるためには、知識を系統的に習得する行動目標型と、日常の授業に即役立つ社会的構成主義型の研修をうまく組み合わせた総合研修が必要である。(行動目標主義と構成主義については添付資料を参照願いたい。)

A授業技術の研修(教育方法・技術、教育メディア、教材開発)
 教授法を習得する。

本プロジェクトの成果の一つは、パイロット校の教師に授業技術の飛躍的な向上が見られたことである。教師の発問技術、板書技術、プリント教材作成、KR(誉める、励ます)、グループディスカッション、生徒の発表の機会を増やすなど、前述した授業フローから見ても初年度と比べ成果は明らかである。

今後は、生徒の知識理解向上や情意面(満足度)を考慮した教授法や、学習効果を客観的に明らかにする評価法についての研修が重要であろう。

Bリテラシー(literacy)に関する研修(倫理、モラル、国策を含む)
 資質向上。

教師の資質向上には、教師自身のリテラシーの育成が大切である。時間を要する内容であるが、PNGの今日的課題(HIV、環境、家庭教育、職業、産業等)をトピックとして取り上げ、世界の動向を紹介しながら教育者としてのリテラシー向上を図る研修が重要である。研修方法は、前述した社会的構成主義型が適している。


(2)研修形態

日本で実施される研修の形態は、集合研修であり、国、地方自治体が企画立案し、指導者として大学教員が協力するものが通常である。また研修は、上級免許にプロモーションするための認定講習(科目修得認定)と、地方自治体が企画する研修に大別される。研修場所は、地方自治体の教育センターをはじめ、地域によっては学校を指定して近隣の教員を対象として実施している。

岐阜県では、教育委員会が主催し岐阜大学が協力して、TV電話システムを利用した遠隔教員研修を実施している。これは、僻地の教員に対して研修機会の均等化や、研修効率の向上、研修コストの軽減を図ったものである。その他、TV電話システムを利用して5大学(香川大学、高知大学、鳥取大学、島根大学、山口大学)を結び、各地域の現職教員を対象とした上級免許取得のための大学院科目認定講習を実施し単位認定したケースがある。これらのケースは、同期かつ双方向による研修形態であるが、研修時間の多くが指導者による指示や説明時間に費やされ、一方向の講義になることが多い。本プロジェクトのようにTV教育番組をライブ放映する、一方向による研修形態については、双方向性を補填する方略(現地でのファシリテータの育成、印刷教材)を提供することにより研修効果が十分期待できる。

ただし、その方略はメディア先行型ではなく教育的なアプローチが重要であり、教授学習過程における指標に基づきカリキュラムの設計、コンテンツ、評価内容・方法などを十分に検討しなければならない。教師教育に特化する場合、現状の生徒に向けたTV教育番組の放映ではなく、教員研修用として前述の教科教育や授業技術に関するカリキュラム開発、コンテンツが重要になってくる。


(3)集合研修とTV利用の遠隔研修の比較

教員研修で実施される内容のうち、以下に授業技術について双方の比較検討を行う。

 ・研修名:教育実践学特論
 ・研修時間:30時間(2単位)
集合研修(出前含む) TV利用の遠隔研修
■主催者
指導者謝金 要(30時間) 不要(要ファシリテータ)
指導者交通費 不要
設備 実施場所のみ 各校(TV、ANT、GENERATOR、CASE)
放映設備 不要
教材作成費 不要(プリント教材) 要(ビデオ、カードチャート、プリント教材等)
回線使用料 不要
■受講者
受講者交通費 不要
研修機会
教育効果(理解)
教材の再利用 × ◎(ダビング再利用可)
情意(意欲関心) ◎(初頭効果)
受講者規模
モデル教師への質問 ×(郵便)
モデル教師からの発問 △(予測)
研修時間の制約
評価 ×
課題提出 ×(郵便)
学習診断 ×
今後の課題と提案
(1)学年別の教科学習シラバス、教師用指導書、資料・教材集

今回視察したモデル校での授業がscienceとsocial scienceであったため、現行の学年別scienceカリキュラムの内容について調査した。その結果、指導学習内容(recommended knowledge)、指導過程(recommended processes) 、指導方法(skills and suggested activities)の記述が大まかで理論の系統立てに無理があり、効果的な知識習得が困難な箇所が多くあった。カリキュラムを見る限り、現場の教師任せの感がする。その結果、教師の力量によって学校間の指導内容に差が生じ、さらに生徒の学力差にもつながっている。

よって、TV教育番組の授業内容についても、基盤となるシラバスの見直しが先決であろう。同時に、現場教師の立場に立った「見やすい」、「授業実践に役立つ」教師用指導書(teachers guide book)、生徒用配布教材に役立つ資料・教材集を作成し、TV授業を実施する学校だけではなくすべての学校に対して配布することが重要である。


(2)放映用教科教育番組の構成の見直し

現行のモデル教師による授業は、モデル校の生徒、パイロット校の生徒と教師と複数の対象者に向けて収録されている。視聴する観点も、生徒が新しい知識を獲得する点(内容)、教師が指導方法を参考にする点が並行して取り上げられている。その結果、パイロット校の教師は限られた場面でのみ主体的に教授活動することになる。さらに、モデル校の生徒とパイロット校の生徒間では、学習活動に差異が生じる場面が多々ある。モデル教師による。

よって、新しい知識や技能の教授内容、実験や指導の方法について、パイロット校の教師に焦点化した教師教育用の短い番組を作成することを提案したい。番組ではモデル校の教師が行い、番組放映後にパイロット校の教師が主体的に授業展開できるスタイルをめざしたい。ただし、パイロット校の各教師へ指導書を配布することが前提となる。

また、現行のTV授業は、知識・技能詰め込み型の行動目標型となっているが、生徒が主体的に学習できる社会構成主義型の授業展開を取り上げた番組の開発も必要である。授業内容に関連した生徒の関心事や生活に密着した事象を授業の導入段階で取り上げることで、より主体的な学習が可能であり知識の習得にも効果が期待できる。既存のTV授業と、今後開発される社会的構成主義型のTVプログラムを併用することにより、生徒はもとより教師の資質向上にとっても新しい知識・技能を習得する点や、生活での習得知識を応用する点で大きく貢献するであろう。


(3)メディア教材利用の見直し

モデル校の授業の流れを見てもわかるように教師の説明の多くにパワーポイントを利用している。パワーポイント教材は、時間の効率性、見やすさの点から大変重宝であるが、生徒にとっては筆記作業に多くの時間が費やされ、さらに教材の提示時間にも制限があるため学習の定着には結びつかない点が危惧される。

よって、モデル教師の板書内容を増やし、筆記する生徒の思考過程に配慮した教授法が必要であろう。そのため、教師の板書技術にさらに工夫を凝らすと同時に、TVのない学校でも活用できるよう紙で容易に手作りできるカードやチャートの教材が必要であろう。また、板書では十分に説明できない動的な学習内容については、擬似的に再現できるシミュレーション提示のための学習教材をアプリケーションソフトにより開発することが必要である。

現行の教材には、時系列で学習場面ごとに要する時間や配分が表示されていない、パイロット校の授業で時間情報はきわめて重要であるため表示を付記する必要があろう。また、他の収録ビデオが学習内容に関連する場合には、それらを放映するなど生徒に刺激(cue)を与える工夫をすることにより学習効果に期待できる。


(4)教師教育用TV番組の開発

教師教育は、その内容として既にあげた3項目(教科専門、授業技術、リテラシー)からなる番組の開発が必要である。番組のコンテンツは、基本的な知識や技能に加えて、パプアニューギニアの地域性、文化、生活、習慣などを取り入れ、学習に刺激(cue)を与えるものが重要である。分野に応じて行動目標型、社会構成主義型を意識して番組を構成することが大切である。日本の教師には、「多忙」、「ルーチンワーク」、「無気力」、「プライド」、「プロモーション」、「給与」、「集団意識」など教師独自の特質があげられる。パプアニューギニアにおいても教師の特質を尊重しつつ、知識や技能の習得を支援する教材の一つとしてのTV教材を考え、環境、情意面に十分配慮した研修内容・方法を考えることが大切である。

そこで、教師教育用TV番組は、誰でも容易にTV番組により研修効果が期待できるようダイジェスト版的な質の高いものが求められる。既存のTV授業のように「教える」、「・・・させる」といった高位な姿勢からの見方、考え方ではなく、知識に乏しい教師の立場から題材を抽出することが重要である。また、番組の評価を事前に行うことも必要であり、教育関係者が視聴して情意面や満足度について評価することが重要な鍵である。


                                                           

モデル教師の授業風景(2002)

生徒の発表風景(2004)

パイロット教師による机間指導(2004)

工夫された教材による実験(2004)

筆記する生徒の様子

TV授業を視聴するパイロット校の教師

見る・聞く・書くを要求される生徒の学習風景

パイロット校のTV授業風景(2002)

改善されたパイロット校の授業風景(2004)

筆記に追われる生徒の学習風景(2004)

5大学会場を結んだ教員研修風景

TV会議を利用した教員研修風景

パイロット教師の板書例1(2004)

パイロット教師の板書例2(文字中心)

モデル校生徒のプレゼン風景(2002)